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厳密に言えば,病院印を押す義務はありません。ただ,慣例的に行っている病院も少なくないことから,患者の求めに応じて病院印を押印しても差し支えないと思います。患者の希望に沿うことも,医療機関のサービスの一環です。
押印するということは,「ある行為について最終意思確認をしたという証拠になる」ということです。したがって,印鑑も本人のものであると判断できるようなものでなければなりません。とりわけ「実印」は住民登録している市区町村に自分の印鑑として登録をして印鑑証明書の交付が受けられる最も信頼性の高い印鑑です。
一方,日頃よく使用される,いわゆる「シャチハタ印」でも,押印するという行為に変わりありません。押印したにもかかわらず,その意味・責任の重さを「知らなかった」では済まされないことになります。
診断書は医師個人が医学的診断に基づき結果を記したものであり,診断書に病院印が必要という法的な規定もありません。よって,原則としては医師の押印のみでよいということになります。
ただ,体裁を整えるためということで古くから慣習で行っている医療機関もあります。また,料金漏れ防止などの理由から,診断書の作成にあたっては必ず会計窓口を通し,かつ病院印を押すというシステムを採用しているケースもあります。
このため,不要なトラブルを回避する意味合いから,窓口で病院印をすぐに押すことができるのであれば,患者の希望を聞き入れて,そのように対応すればよろしいかと思います。
ちなみに,「署名」と「記名」の違いについても触れておきます。両者を混同し,使い分けができていない事例が散見されるためです。
「署名」とは,自分自身が自筆で書くこと,つまりサインのことを言います。一方,「記名」とは,自筆以外で記す方法を言います。たとえば,パソコンで表示したり,ゴム印を押したり,他人に代筆してもらった場合などです。
また,「署名」と「記名・押印」は同等の効力を持つとされています。したがって,「記名」だけでは「署名」の代わりとして認められませんが,「記名」の後に印鑑を押すことにより「署名」と同じと見なされるのです。
日常何気なく日々押印している印鑑ですが,押印することの意義を十分理解し,取り扱いに注意を払う必要があります。
よく斜めや逆に押印してある印影を見かけることがあります。本人の意思表示の確認という意味においては特に問題ありません。ただし,時には相手に対する反抗的な意思表示と受け取られることもあるので,押印前には印影の位置を確認するよう心がけましょう。
手書きで苗字などを書き,字の周囲を囲んでサインすることを言います。拇印と同様,印鑑がないよりはましという扱いですが,単なる署名よりも最終的に意思表示したものと見なされます。
入院の申込書と同時に規則遵守の旨の誓約書に署名していただくことがあります。このときに,患者欄と保証人欄の押印を同一印で済ませている光景を見かけることがあります。
しかし,印鑑が個人の最終意思を表示する証明書ということであれば,本来,別の印鑑が用いられることになるはずであり,同一印の押印ということは,いずれか一方の証明にはなっても,もう一方の証明にはなりません。したがって,文書そのものの信憑性が疑われる結果にもなりかねません。
入院の申込み手続きの際,同一人物が入院申込書や誓約書などに別々の氏名を記入し,それぞれの印鑑を押印している例に遭遇することがあります。たまたま院内でトラブルが発生したときに,記載されている連絡先に問い合わせたところ,当の本人は「記入したことも,押印したこともない」などと言って,発覚するケースがあります。
それでは,第三者が作成した記名押印は無効なのでしょうか。記名とは前述の通り,代筆でもよく,押印は最終的な本人の意思表示の証明でもありますから,原則として本人が行うべきではありますが,第三者が記名押印するということは本人が第三者に指示したものと見なされ,結果的に第三者が本人の記名押印を代行したということで有効となります。
しかし,後日,本人が「承諾した覚えがない」と主張した場合に困難を極めることになりますので,本人同席の上で自署していただくようにすべきです。
仮に,本人の指示なく勝手に記名押印した場合は,刑法第159条「私文書偽造等」に該当し,3月以上5年以下の懲役に処せられます。
関係法令など
行使の目的で,他人の印章若しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し,又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利,義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は,3月以上5年以下の懲役に処する。
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
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