もつれない患者との会話術
ポイント
玄関側の看板に示した診療科の医師が不在でも,医療機関は診療契約違反で訴えられることはありません。ただ,日常業務としてホームページの診療体制情報を適切に更新したり,医師不在時のルール(紹介する他院など)を前もって決めておいたりするべきでしょう。
解説
医師も生身の人間であり,急に体調を崩して休診となることもありえます。また,看板やホームページは,昔で言うなら電柱の看板と同じで,患者に情報提供しているに過ぎません。「当院では,このような診療科を揃えて皆様のご来院をお待ちしておりますよ」とご案内しているのです。これは,民法第521条でいうところの「申し込みの誘引」であり,患者からの申し込み(=診療してもらいたい)を誘う行為です。
この誘引(=看板やホームページ)に応じた患者の意思表示が申し込みとなりますが,「申し込みの誘引」を行った者(=医療機関)が改めて承諾しない限り,契約は成立しないのです。つまり,患者が窓口で診察を希望している旨を職員に告げている段階では,まだ「診療契約」は締結されていません。このケースのように,玄関側の看板を見て医療機関に飛び込んできた患者が,その担当医が不在であったことを理由に「嘘つき」呼ばわりしても,「診療契約違反」とはならないのです。
医療機関の対応
前述したように,看板やホームページは情報を提供しているにすぎず,契約成立にはそれなりのステップが必要となります。たとえば,ある八百屋がリンゴを10個で500円として陳列し,消費者に「特売!」と購入を呼びかけし,消費者がこれに反応して購入の意思表示を行い,レジで500円支払ったところで売買契約が成立するのです。
これを医療機関に当てはめると,玄関側の看板を見て希望する診療科の診察申し込みを行い(具体的には診療申込書に記入),医療機関側が申し込みを受諾(申込書を受理)したときに診療契約が成立したことになるのです。
最近はインターネットで検索して来院する患者さんも多くなってきていることから,ホームページの更新を速やかに行うことが求められます。ただ,更新作業を随時できない医療機関においては,ホームページ上の診療担当表の周辺に「やむをえず休診となる場合もありますので,ご来院の際は事前に電話で確認してお越しくださるようお願いします」といった文言を加えることで,トラブルを未然に防止できるかと思います。
関係法令など
- 承諾の期間を定めてした契約の申込みは,撤回することができない。
- 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは,その申込みは,その効力を失う。