もつれない患者との会話術
ポイント
預かり金制度を導入している医療機関は,電話で診察要請があった場合,まず預かり金制度である旨を説明しましょう。面倒でも,しっかり説明してから来院を促すことが必要です。実際の診療報酬の算定額が預かり金を下回った場合,お金を横領していると疑う患者もいますが,そもそも預かり金制度は患者の便宜を図っているわけで,横領罪を構成する要件には該当しません。
解説
診療報酬は診療が終了した時点で受領するものとされており,診療時間内であれば問題ありませんが,休日・夜間など時間外での診療については診療報酬算定担当者が不在などの理由で通常の会計処理ができません。そのため,とりあえず概算(または規定額)で一時的に預かり,後日,精算します。
預かり金制度は,診療費の未収を多少なりとも減らすことを目的としています。重症患者ほど診療費は高くなりますが,救急で来院する患者や付添の方が多額な所持金を有していることはなく,自ずと預かる金額も決まってきます。ましてや所持金が少ない場合は,とりあえず帰りの交通費を除いた金額を預かることもあります。しかし,実際の診療報酬の算定額が預かり金を下回った場合,横領していると疑う患者もいます。
預かり金制度を導入している医療機関では,預かり金を受領した際,必ず精算期日を記した預かり証を交付しています。その際,精算期日までに精算を行えば保険診療扱いとしますが,期日までに精算を行わなければ自費診療となる旨も説明しています。このように,病院は患者の便宜を図って精算期日を設定しているのであって,横領しているのではないのです。
横領罪とは,いわゆる「自分の占有する(自分のもとにある)他人の財産を自分の物のように処分する」ことを言います。これが仕事に関して預かった物であれば,業務上横領罪となり,罪が重くなります。たとえば,患者からの預かり金を賭博に使い果たしてしまった場合です。しかし,医療機関における預かり金の仕組みでは,期日を設けて精算処理する旨を告知してするため,横領罪を構成する要件には該当しないことになります。
医療機関の対応
夜間も会計担当者を配置し,会計処理している医療機関は別ですが,預かり金制度を導入している医療機関は,電話での診察要請の場合,預かり金制度である旨の説明を行う必要があります。このケースのように最近は,「聞いていない」「説明を受けていない」「書いていない」などと言って支払いを拒んだり,医療機関側に負担させようとする患者もいます。トラブルになる前に面倒でもしっかり説明してから来院を促すことが必要です。
関係法令など
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は,10年以下の懲役に処する。