もつれない患者との会話術
ポイント
本来治療を必要とする疾患とは別の症状が発現したことで,その治療費についても支払わされることに納得できないという患者の心情を受け止め,治療開始前に副作用について説明することが求められます。
解説
適正な治療を行っても,医師の過失を伴わない症状が発現することがあります。いわゆる「副作用」です。治療を行う過程で患者は医師から説明を受けてはいますが,いざ副作用が発現したとなると「説明は聞いているが,それに関わる費用が患者負担となることまでは聞いていない」とか,「このような症状になるとは説明を受けていない」と,医師に詰め寄ったり,誤診ではないかと言い出す患者もいます。
適正な治療行為を行っている限り,患者からのいかなる申し出に対しても何ら受け入れるべきではなく,現在の症状に至った過程と今後の治療によっては治癒または軽減が見込めることなどを説明し,ともに治療に取り組む方針を示すことが大事です。
医療機関の対応
適正な治療を行ったにもかかわらず副作用の発現で患者に健康被害が生じた場合には「医薬品副作用被害救済制度」がありますが,この制度では,使用目的・方法は適正で健康被害が生じた場合でも,入院治療を要する程度でなければ救済給付の対象とはなりません。したがって,外来通院で治療可能な症状については,この制度を利用できないことになります。外来通院程度の治療も対象となれば患者に対する説明も楽になるのですが,対象外の症状が生じた患者対応に非常に苦慮することになります。
医療機関としては,まず治療を開始する前に十分時間をとって治療方針や治療内容を詳細に説明する際に合併症や副作用の発現もありうること,その場合の治療についても並行して行うこと,同時に治療費も発生するがその費用は患者負担となることを明確に説明し,できれば書面で交わすことが求められます。患者によっては,「医師から説明を受けサインしたが,患者負担することまでは聞いていない」と反論される場合も想定されるからです。仮に,そのような説明を省いてしまった患者から,副作用に関する治療についての治療費支払い拒否に遭遇した場合には,患者から何を言われようと医療機関としては何としてでも治療費の請求を行うことしかありません。頑なに支払い拒否する患者に対しては,弁護士を通して支払い督促を実施するとともに,最終的には裁判所に提訴して判断を仰ぐことになります。そこまでしたくないと言われる医療機関もあるかと思われますが,その時点で既に医師と患者の信頼関係が破綻しており,今後の信頼関係の構築が見込めないことを考えれば致し方ないことと思います。
参考
- 1)趣旨
医薬品医療機器総合機構法に基づき,医薬品を適正に使用したにもかかわらず副作用による一定の健康被害が生じた場合に医療費,年金等の給付を行う制度である。
- 2)対象
- ・医薬品の薬理作用によって生じる有害反応である「副作用」が対象であり,感染や異物による汚染は対象外。
- ・副作用の中でも「入院相当の治療が必要な被害」「1・2級程度の障害」「死亡」の場合が対象であり,「軽微な副作用」は対象外。
- ・本来の使用目的とは異なる「不適正目的」や使用上の注意事項に反する「不適正使用」の場合は対象外。