もつれない患者との会話術
ポイント
本当に困っている患者に電車賃を貸す医療機関はありますが, 一般的ではありません。また,支払い能力がありそうなのに医療機関に無心するケースもないわけではないことから,どのような患者には貸し,どのような場合は断るのか,院内で決めておくことも必要です。
解説
以前,某病院の医事課長から聞いた話です。救急車で運ばれた患者が治療終了後,当直医や看護師に,自宅までの交通費を貸してほしいと言ってきたそうです。家族もおらず1人で住んでいるとのことで,医事課長は対応に苦慮したそうです。
患者からの交通費の借用申し出に,どの医療機関も“可能”という対応はしていないと思います。ただ,事情を聞いてやむをえないと判断すれば,当直医や夜勤責任者の判断で,少額を貸与しているケースはあるでしょう。
しかし,家族・知人を頼らずに医療機関の窓口に真っ先に借用を申し出る患者がいるとすれば,そのこと自体をおかしいと疑うべきです。ましてや,「貸さないと,マスコミに言いふらすぞ」と言うような患者は,本当にお金がなくて困っているとは思えませんし,仮に貸したとしても,返金のために後日来院するとは到底考えられません。
このため,真っ先に窓口に借用を申し出るような患者に対しては,医療機関では貸し出しは一切行っていないこと,本当に必要なら交番か警察署に出向いて事情を話すことで最寄り駅までの交通費を貸与してくれることを説明することです。
あまり知られていませんが,交番では財布を落とした人や帰宅の電車賃の持ち合わせがない場合に「公衆接遇弁償費」という制度があり,原則1,000円以内で貸与しています。
医療機関の対応
緊急の際,「まずは病院へ!」という気持ちから,財布を忘れてしまう患者はいますし,すぐには誰にも頼れないような患者に便宜を図る医療機関も実際にはあります。
このため,どの範囲までこのような患者に融通を利かせるのか,個々の医療機関で一度検討するようお勧めします。
なお,無心してくるときの行為や動作が,一般的な尺度に照らして疑わしい場合,きっぱりと断るべきです。この場合,その患者が逆ギレして何かといちゃもんをつけはじめることも考えられますが,患者の言いなりになったり,萎縮して事なかれ主義に陥ることなく,毅然として対応することが必要かと思われます。「診療妨害」ということで警察に通報し,その後の対処をお願いしましょう。