もつれない患者との会話術
ポイント
ムンテラも患者の心理状態や今後の治療方針等を考慮して,説明することになりますが,一方的な説明となることなく十分患者の反応を見つつ,かつ同意を得て最終的には書面に残すことであります。
解説
●ムンテラとは
「先生,先日入院した○○号室の△△さんに,手術のムンテラ済みましたか?」「やっとムンテラ終わったところだよ」と言った会話が医師同士交わされることがあります。
筆者が医療機関に入職した頃「ムンテラ」という言葉がなんとも奇異に感じ,いろいろ聞いたり調べたりしたことがありました。今でも医療機関で「ムンテラ」という言葉が使われていると思いますが,そもそもこの「ムンテラ」という言葉はいったい何語なのか,本来の意味は何なのか,どのような場合に使われるのでしょうか。
「ムンテラ」とは,本来,医師が患者や家族に対して病状・診断・治療方針・予後などについてわかりやすく説明・理解させ,納得してもらうための「口頭による治療」という意味です。この言葉はドイツ語のMund(口頭)と,Therapie(治療)を合わせた造語「ムント・テラピー」であると言われていますが,もちろんドイツでは通用しない言葉であると聞きます。意味としては前述のような意味ですが,別な意味では「口先きの芸」とか,「患者を言いくるめてだます」と言ったニュアンスもあります。ドイツ語には英語のインフォームドコンセントに類似する用語として,Informierte Einwilligung(インフォミアト・アインヴィルグング)という用語があります。意味としては「患者の同意を得るための症状および治療行為の説明」ということだそうです。
「ムンテラ」という言葉がいつ頃から使用されたのかは不明ですが,「ムンテラ」という言葉にはどうしても悪い面の印象を与えることは否めません。つまり,医師自身が診断に自信がない場合に患者を欺くように,さも自信ありげな様子を見せるために使う場合や,患者の診療を適当な時間で打ち切る場面に使われたりします。
大妻女子大学の平井信義名誉教授によると「ムンテラ」の果たす役割について,①患者に正しい医療上の情報を与えること,②患者に精神的安定を起こさせること,③治療に対する患者の努力を促すこと,④患者と医師との信頼関係の樹立を図ることの4項目を挙げています。しかし,医療従事者が受ける印象では,医師側が想定した治療方針を患者が受け入れてもらうべく上手に説明することが目的と思っています。その説明の上手下手で医療機関側が意図する方向に患者を誘導できるかどうかということです。
日本医師会生命倫理懇談会によると「ムンテラ」は,患者のために良かれと願う心からの医師の行為であり,患者と医師との感情の交流を促すものであるとし,適切に行えば「説明と同意」の説明に当たるものとしています。しかし,前述のように「ムンテラ」は,医師の思った通りの治療や検査を躊躇なく受け入れるようにするための方策であり「説明」というよりも,むしろ「説得」に当たるかと思います。ちなみに,平成15年11月16日付日本経済新聞によると,「説得」とは「説いて得するのは説いた側であり,しょせん説得とは自分の気が済むために相手に何かを無理強いすること」と解説しています。
「ムンテラ」はまさに「説得」と言えるかもしれません。
●納得と説得
最近は,医療情報の入手が容易になったこと,患者の権利意識が高まってきたこともあり,とても昔のように「ムンテラ」で患者を言いくるめるという手段で患者を説得する時代ではないことは十分悟っていることと思います。そして「ムンテラ」という言葉に代わって「インフォームドコンセント」という言葉が使用されています。日本語では「説明と同意」とか「よく説明した上での同意」というように訳されています。もう少し詳しく述べるなら「医師から十分な説明を受けた上での,患者の自由意思に基づく同意」ということになります。インフォームドコンセントは患者の知る権利と医師の真実を告げる義務という2つの関係から成り立っています。要するに,医師の説明よりも患者の同意,つまり患者の自己決定権のほうに重点が置かれた意味となります。
それでは,インフォームドコンセントにより医師が真実を告げる義務とされるものにどのようなものがあるか挙げてみますと,病名や病状の診断内容,予想される検査や治療方法の目的や内容,その具体的な必要性と実施に伴う危険性,実施した場合の成功率,説明された方法以外の治療方法の有無,説明を受けた治療方法や内容の治療を希望しなかった場合の予後などです。これらの説明義務を怠って実施した場合,説明義務違反に問われることになるとともに,患者の同意を得ていないことから違法な医療となります。また,一方的に医師が説明を行うも,患者がその内容を十分に理解しない状況で治療を行った場合には,結果の善し悪しは別として専断的医療と見なされ,患者から訴えられる可能性もあります。
インフォームドコンセントは患者の病気を患者自身が理解し,医師と信頼関係を構築してともに治療に積極的に取り組むためにも重要であるということを医師自ら自覚・認識し,日々の診療に生かしていく必要があります。
参考文献
- 平井信義:ムンテラの科学. 実地医家のための会, 1998.
- 日本医師会生命倫理懇談会:「説明と同意」についての報告. 日本医師会, 1990.
- 堀 夏樹:患者と医者は本当にわかりあえるか. 晶文社, 1997.
もつれない患者との会話術
「もつれない 患者との会話術<第2版>」
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
目次
総論 |
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窓口・待合室での会話術 |
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支払いにまつわる会話術 |
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診察室での会話術 |
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看護師・医療スタッフの会話術 |
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問い合わせでの会話術 |
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