もつれない患者との会話術
ポイント
X線写真撮影の1回の被曝量はおおよそ0.1mSv(ミリシーベルト)であり,懸念するには当たらないことを患者に説明することが重要です。それでも患者が不安がっている場合,プロテクター使用を促してみましょう。
解説
●X線写真は1度に5,000枚撮影してはじめて影響が現れる
私たちが日常生活で浴びる被曝量とはいったいどのくらいなのでしょうか。
自然界にも存在する放射線は1年間で2.4mSvとされ,胸部X線写真で約8~48枚分に換算されると言われています。つまり,普通に生活していても年間約8~48枚分くらい被曝しているわけです。放射線を1度に全身に受けた場合に障害が現れる例としては,500mSv被曝すると白血球が一時的に減少すると言われています。胸部X線写真撮影の被曝量を単純に0.1mSvとして換算すると,1度に5,000回撮影しなければ達しない量なのです。ゆえに,ほとんど心配する必要がないということになります。
一方,X線診断は病気の早期発見や早期治療という便益が被曝による発がんリスクを上回ると考えられています。要は,不必要なX線診断を避けることに尽きると言えます。
では,X線診断で受ける放射線で本当にがんになるのでしょうか。大量の放射線に被曝するとがんの危険性が増えることは多くの研究で明らかになっていますが,X線診断で受けるような少量の放射線ががんを引き起こすかどうかについては科学的に明らかにされておりません。
医療機関の対応
2011年3月11日の東日本大震災における福島第一原発事故以来,放射線被曝について非常に関心が高まり,X線やCT撮影を施行する際にも被曝量を気にする患者が多くなってきました。
放射線の被曝問題について関心が高まったのは英国の医学誌「ランセット」の2004年1月31日号に掲載された,診断用のX線検査で受ける放射線被曝と発がんのリスクに関するオックスフォード大学グループの論文を,日本の新聞が「放射線診断での被曝を原因とする発がんは日本が最高」というセンセーショナルな形で報道したのがきっかけでした。論文の内容は,1991~1996年における診断用X線の撮影回数を調査した結果,日本人の医療被曝回数は英国などに比べ3倍ほど高く,日本ではX線診断によってがんになる人が全がん患者の3.2%を占めるというものでした。診断用のX線検査そのものが危険この上ないように受け止められますが,放射線診断によって病気が発見され,早期治療につながるという便益があるのは事実です。
事例の顚末を紹介すると,健診当日,担当医師から本人に被曝による影響はほとんどないことを十分説明し,了解を得ました。ただし,生殖機能を保護するためのプロテクター着用を希望したため,下半身を防護して撮影を実施しました。必要のないX線撮影を実施しないのは当然ですが,X線検査の必要性,この検査で知りうる情報の有用性などを十分説明することが求められます。
参考
- ランセット論文(Lancet 2004;363:345-51)の要点
日本,米国など15カ国におけるX線診断の回数や診断による被曝量,年齢,性,臓器ごとに示した放射線の被曝量と発がんの関係についてのデータなどに基づき,X線診断による被曝を原因とする75歳までのがん患者数が推定された。この数が日本では年間7,587例で,がん患者全体の3.2%と推定された。日本以外では,英国,ポーランドがともに0.6%と最も低く,米国で0.9%,最も高いクロアチアでも1.8%だったと報告している。
放射線の量を表す単位で,1Sv(シーベルト)の1,000分の1が1mSv。