もつれない患者との会話術
ポイント
医療機関における看護師の存在は昔と異なり,現在は医療の中心的存在となって,その役割も非常に大きな比重を占めています。そのため業務の負荷と責任がのしかかってきており,医療機関全体で安全管理体制を考えていかなければならない状況となっています。
解説
●看護師の行政処分の増加傾向
厚生労働省は2016年12月15日に刑事事件や医療ミスなどで罰金刑以上が確定した看護師27人の行政処分を発表しています。内訳としては,3人が免許取り消し,23人が3年~1月の業務停止,1人が戒告となっています。厚生労働省も以前から看護師へも再教育の義務づけを方針とする保健師助産師看護師法の改正に取り組み,重大事故の防止抑制に努める方向に動き出したところです。保健師,助産師,看護師も医師と一緒に治療にあたることから,ここ数年,刑事事件として処罰されるケースも少なくありません。
そういった点から,昔の「白衣の天使」のイメージとはほど遠い医療の現場となっているのが実情です。過酷な医療現場で「3K」に耐えながら患者のために必死で働く看護師を見ていると,いずれ職業として看護師を希望する若い方がいなくなるのではと思います。
●見る・看る・診る
「みる」という言葉を漢字で表すと,「見る」「看る」「診る」という字があります。
「見る」は目と同根で,目にとめて見る,その機能を言う場合に使われます。字形から言うと,見(けん)は人の上部に大きな目をしるした形で,人の見る動作を表し,一般的には目でみるときに使われます。
「看る」はケアすることを意味しています。この「看」という字はよく見ると,「手」という字に「目」がついています。つまり本来の意味として,この「看」は「手をかざしてよく見る」ということです。看護のことを「手当て」とも言います。このように「手」と「目」は看護の基本とされています。目で「見る」だけではなく,「手をかざす」ことで,体と心の隅々まで看て,そして最後を「看取る」ことになるのです。人間にとって最も大切な命や体を見守り世話することを「みる」という言葉で表現していますが,「看る」という言葉にはそこまでの意味を含んでいるということを理解する必要があります。つまり,「看る」ということは,目で見ることだけではなく,体全体の行為となってくるのです。そして最後に「看取る」ことになりますが,この「看取る」は死んだ人を「見送る」という意味です。
一方,「診る」は「診察」の「診」と書きます。「診察」とは「診て」それから「察する」ことであり,つまり診断を下すまで「見る」ということです。「診」という言葉は,言葉でしらべてみる,脈をみるという意味を持っています。字形をみると,診(しん)の音の表す意味は「視(見る意)」です。つまり,医者はまず病状を問うてから脈をみるということから,一般に「病気を診察する」意となったのです。
●患者から見たよい看護師とは
「看護」とはいったいどういう定義なのでしょうか。かのナイチンゲールは「看護はすべての患者に対して生命力の消耗を最小限度にするよう働きかけること」を意味すると言っています。米国看護師協会は「看護とは,現にある,あるいはこれから起こるであろう健康問題に対する人間の反応を判断し,かつそれに対処することである」としています。
ちなみに,法律(保健師助産師看護師法第5条「看護師の定義」)では,「厚生労働大臣の免許を受けて,傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう」と規定しています。一般には,看護とは看護技術を用いて看護ケアを行うことと言われています。
2005年11月に開催された日本生命倫理学会年次大会において大分県立看護科学大学小西恵美子氏のグループが興味深い演題を発表していたので紹介します。
「20世紀初頭において医師に従属的でよく働く補助者として『寡黙・従順・服従』が求められ,そのような特質を備えた教育を受けてきた看護師がよい看護師と言われてきました。しかし時代が大きく変容し,看護師に求められる役割も社会の変化に伴って変わってきました。調査の結果,よい看護師とは,まず人として関わりができ,その上に専門職者(プロ)としても関わることができる看護師ということでありました。さらに詳細に調査すると『よい人としての看護師』が『よい看護師』として挙げられたことでありました。具体的には,『患者に人として関心を持つ』『患者をかけがえのない人として大切にし,気にかける』『一生懸命関わる』『親身になって患者のためを思って関わる』『人対人の礼をもって接する』などをよい看護師の資質であるとして説明していたことです」時代の変容とともに看護師に求められる役割も大きく変わってきましたが,もう一度看護の「看」という文字の意味を噛み締め,プロとしてのプライドを持って仕事に取り組んでいただきたいと思います。
参考文献
- 立川昭二:からだことば. 早川書房, 2002.
- 加藤常賢:角川字源辞典. 角川書店, 1983.
- 白川 静:新訂 字訓. 平凡社, 2007.
- 小西恵美子,他:患者からみた「よい看護師」の資質:「よい人」としての看護師. シンポジウム1, 日本生命倫理学会第17回年次大会, 2005年11月20日.
もつれない患者との会話術
「もつれない 患者との会話術<第2版>」
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
目次
総論 |
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窓口・待合室での会話術 |
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支払いにまつわる会話術 |
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診察室での会話術 |
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看護師・医療スタッフの会話術 |
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問い合わせでの会話術 |
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