もつれない患者との会話術
ポイント
来院する患者の中には,見るからに高級な衣服を身に着けている方もおり,担当する技師も汚さないように気を遣いながら検査を施行していますが,このような場合に患者の要求通り新品を弁償しなければならないかどうか,がポイントです。
解説
ここでいう「シャツ相当額」とは,新品のシャツの価格ではなく,汚されたシャツの「時価相当額」を言います。つまり,既に何度か着ており,シャツの価格が購入した当時に比べて相当価値が下がっており,新品価格で弁償する必要はないということです。
判例でも,「不法行為による物の滅失毀損に対する損害賠償の金額は,特段の事由がない限り,滅失毀損当時の交換価格により定むるべきである」(最高裁昭和32年1月31日判決)と下しています。この判例を根拠にすれば,一度袖を通した衣服については,既に新品とは言えず中古品扱いとなり中古品市場の価値で判断することになります。
医療機関の対応
全国の私立医大病院の情報交換の場においても,前述のような「病院の過失によって患者の衣服を汚してしまったときの対応についての取り扱い規定の有無」が話題となったことがありました。このような対応時の規定について設けている大学病院は1つもありませんでした。ということは,他の医療機関についても同様と思われます。検査施行時は細心の注意を払って対応しているつもりでも,人間のやることでもあり,不測の事態に陥る場合もあります。被害に遭った患者に対しては申し訳ないという気持ちで謝罪しますが,即「新品を弁償せよ!」と言われることには抵抗があるかと思います。
解説の項で説明した通り,一度着てしまった衣服は中古品であること,これは衣服に限らず自動車や住宅を購入した場合も同様です。ただ,患者としては本当に気に入った衣服ほど愛着があり,ずーっと着たいと思うことから諦めきれない心境で要求してきます。病院側としても,患者の気持ちは理解できますし,本当に新品を弁償したい気持ちもありますが,クリーニング代に少し高めの迷惑料を提示して了解してもらうしかないと思います。
もちろん,病院の規定で新品を弁償するという扱いであれば,それはそれで問題ないと思います。
ちなみに,使用人(職員)が仕事をしていて第三者(患者)に損害を与えた場合は,職員の使用者(医療機関)がその損害を賠償する責任を負うことになります(民法第715条)。
関係法令など
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき,又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,この限りでない。
参考
衣類のシミなど類似のトラブルが多いクリーニング店の補償規定が参考となると思われるので記します。
賠償額=物品の再取得価格(事故発生時における同一品質の新品の市価)×物品の購入時からの経過月数に対応して賠償基準額に定める補償割合
【賠償額の範囲】
購入後1年未満の場合:購入価格の100~80%程度
購入後2年未満の場合:購入価格の80~60%程度
購入後3年未満の場合:購入価格の60~50%程度
購入後3年以上については購入価格の30%以下
(全国クリーニング環境衛生同業組合連合会)