もつれない患者との会話術
ポイント
患者は常に衛生的な管理下において安心できる診療を受けることを願っており,不衛生な環境では安心して治療も受けられないこと,また医療機関の評判にも影響が及ぶことを考え対処する必要があります。
解説
●患者からの指摘
手袋交換について,某病院において「外来受診している患者が検査のため採血室で採血を行う際に,検査技師が手袋を交換するところを見たことがない。感染したらどうするのか」という投書があったという話を聞いたことがありました。
その病院では血液が付着している場合を除き,速乾性の消毒液で消毒して採血業務を行っており,ほとんど交換はしていないという話をしていました。医療機関によっては,理屈ではわかっているものの患者ごとに交換していては多くの患者を捌けず時間的ロスとなること,手袋の使用枚数が多くなりコストに反映することなどの理由により,速乾性の消毒液で消毒を済ませていると聞きました。
ここ数年前から感染に対する患者の意識も高まり,業務の1つひとつに医療機関の対応と対策を求める患者も多くなってきました。今回の指摘もその現れと思いますが,医療機関としてどのような対応をすればよいのでしょうか。
●ある医療機関の対応
以前,雑誌の投稿欄に患者が採血の際に,「採血担当の看護師が前の患者の採血後手袋を交換していないことを確認したために採血時に手袋交換を要求したが,その看護師から『手袋からは病気は移らない,よっぽどあなた(患者)が手洗いすることのほうが大事だ』と言われ,渋々採血を受けた」という内容が掲載されていました。琉球大学医学部附属病院検査部では,平成15年3月2日から“感染事故防止のために手袋を装着して採血する”ことを開始,その後平成16年11月22日より1人ひとりの患者ごとに手袋の交換を実施しているということでした。その理由として,交換せずに使用することは採血担当者の感染防止には有効であるが,患者にはむしろ交差感染の危険性を助長すること,採血対象の患者は外来患者であり,採血担当者は患者の病態(特に感染性の有無)をまったく把握できない状況にあることを挙げていました。また,患者ごとに手袋を交換することによって発生する経費負担が予想したよりも少なく,許容の範囲にとどまったことも実施に踏み切った理由として挙げていました。
●標準採血法ガイドライン
日本臨床検査標準協議会(JCCLS)の「標準採血法ガイドライン」では手袋の装着について,「採血者は手袋装着に先立って流水と石鹸による手洗いまたは速乾性手指消毒薬による手指消毒を行う。採血者は両手に手袋を装着し,原則として患者ごとに交換する」としています。さらに「手袋の装着は,採血者の針刺し等の血液曝露による患者・採血者間での感染の可能性,および採血者の手を介する患者間での交差感染の可能性を低減することを目的としたものである」と解説されています。
JCCLSの「標準採血法ガイドライン」は,採血は血液を検体とする臨床検査を行うために必須の医療行為であること, また国民にとって最も身近な医療行為であることから,採血を受ける者,医療従事者がともに安全で正しい検査結果を得るために作成されたガイドラインです。
医療機関の対応
本来なら,患者ごとに手袋を交換し,手袋を外したときには手指消毒し,次の採血のために手袋を着用するのが原則です。しかし,採血患者数が多くなればなるほど,効率のよい採血業務が求められ交換のために時間を取られたくない気持ちと,使用枚数が増えることによる経費増により,血液が付着しない限り手袋装着のまま消毒を済ませて,次の患者の採血を行ってしまいがちな医療機関もあるのではないでしょうか。
某病院の検査技師に聞いたときには,「患者ごとの手袋交換は理解しているが,実態は10人採血したら手袋交換,10人に満たない場合でも血液付着の場合は交換という運用で凌いでいる」と話していました。同じ手袋で何回使用可能かということについても明確な回答は見出せず,10人が多いなら5人では良いのか,3人にするべきなのかという根拠のない議論となってしまいます。
一方では,手袋交換は決して時間を要することではなく,慣れれば煩雑でもないという意見もあります。また,実際に感染事故が発生した場合の多大な費用を考えると手袋に要する費用は決して高くないはずであり,時間的ロスやコストの点から取り組みにくいという話は医療機関側の言い訳で,患者中心の医療を謳い文句としている医療機関であれば,いくら時間がかかろうとも経費が高くなろうとも患者に必要なものは提供すべきであるという意見もあります。
年々感染に対する国民の関心度が高くなっていること,患者の医療機関を見る目が厳しくなってきていること,また医療機関に安心・安全を求める患者の要求度が増してきていること等々を考慮すると,1患者1手袋交換を実施するのは当然のことであり,手袋自体を消毒しても付着した病原体が確実に消毒されないと認識し,コストよりも安全面・衛生面を重視して対応しなければならないと思います。
参考文献
- 渡邊 卓,編:標準採血法ガイドライン. GP4-A2. 日本臨床検査標準協議会, 2011.
もつれない患者との会話術
「もつれない 患者との会話術<第2版>」
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
目次
総論 |
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窓口・待合室での会話術 |
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支払いにまつわる会話術 |
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診察室での会話術 |
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看護師・医療スタッフの会話術 |
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問い合わせでの会話術 |
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