もつれない患者との会話術
ポイント
今や街中至るところに防犯カメラが設置されています。医療機関においても例外ではなく,防犯対策として要所に設置しています。防犯カメラに写っていることで不安を抱く患者もいることから,映像記録は厳重に保管し間違いなく消去していることを説明し,患者を安心させます。
解説
●多発する盗難事故
相変わらず医療機関での盗難事故は頻発しています。平成28年版犯罪白書によると,窃盗の認知件数が80万7,560件と一般刑法犯の73.5%を占め,しかもその検挙率が28%という報告がなされています。医療機関においても盗難事件が多発していますが,医療機関は急患の受け入れや入院患者の治療などで夜間でも人の出入りがあり,防犯対策を講じにくい面もあるところが狙われる要素となっています。しかし,患者にとっては「一番安心できる場所」と思われている場所が実は「最も危険な場所」であっては,安心して治療に専念できるものではありません。そのため,何らかの対策を講じる必要があります。
●防犯カメラの設置に関する意識調査
防犯予防対策のひとつとして,今,街角のあちらこちらで犯罪を未然に防止することを目的に防犯カメラが設置されています。以前は人のわからない場所に設置していましたが,最近は逆に設置していることや設置場所を知らせて犯罪を行いにくくさせるような方式に変わってきました。防犯カメラが殺人事件や通り魔事件の解決に結びついたことから,積極的に繁華街を中心に設置するところが増えてきました。
2014年に三菱電機ビルテクノサービス株式会社が10,000名の方に「防犯カメラに関する意識と実態調査」を行った結果,様々な場面で防犯カメラが設置されていると安心するとの回答が81.4%であったこと,自分自身の行動も録画される機会が増えたことについて気にならないとの回答が80.5%,防犯カメラの効果は犯罪抑止力が76.4%,犯人の特定が66.5%との回答でした。
一方,防犯カメラへの要望として録画データの流出防止と回答した方が71.4%でした。設置に賛成する方が多い半面,疑問視する意見もあります。無差別に撮影されていることに不安感を訴える方もいます。その理由として「モニターで誰が見ているのか不安である」「記録画像がどのように使用されているのか不安である」といったことが挙げられています。防犯と監視の線引きがあいまいなまま効果ばかりが強調されており,今後防犯カメラをどう使用するか,共通認識を持つ必要があります。
●医療機関に防犯カメラを設置する場合
意識調査でも明らかなように防犯カメラの犯罪抑止効果が認識されていることから,プライバシーに配慮しつつ,カメラ設置は必要だと思います。そのために外来の目につく場所に「防犯カメラ設置」と表示したり,防犯のために設置している旨の掲示をしたり,入院に際しても決してプライバシーを侵害するものではないことを説明し,入院説明書にも明記する必要があります。このような対応によって,来院する患者は防犯カメラ設置を了解済みで受診しているということになります。なおかつ,不安を感じる患者には設置箇所を説明し,写された画像を流用しないこと,厳重に保管し期限がきたら確実に消去することの約束をきちんと交わすことで理解が得られるのではないでしょうか。
防犯カメラには「今写っています。録画されています」という威嚇があります。そのため,防犯カメラひいては監視社会に反対する人もいます。その理由として,写るのは一般人であり,プライバシーや肖像権の侵害の恐れがあることを挙げています。しかし,一般の人の意識は先の調査でもわかるように「プライバシーより安全」ということに大きく傾いており,安全を優先したいという意識が強くなってきており,それだけ安全が身近な問題となっているのです。昔,先輩から「院内の廊下は公道と思え」と教えられましたが,その考え方からすれば患者・家族・見舞い客以外の人も通行する院内に設置することで安全を保つことができるのです。
医療機関内での犯罪も窃盗以外に暴力・損壊・ストーカー行為・傷害と多発しています。防犯カメラの設置によってすべて解決するというわけではありませんが,少なくとも患者の安全に寄与することは可能です。ただし,設置費用と監視する維持費用を考慮すると,どの医療機関でもすぐ設置できるというわけでもありません。防犯カメラを設置したから絶対安全と言えるものでもありません。監視する一方,細目に巡回を実施したり,職員が患者・家族に声かけしたり,不審者に目配りしたりすることこそ大事なのです。
1つ言えることは,防犯カメラにも死角があること,犯罪者も学習しておりしばらくすると監視効果が薄れてくることを認識して,防犯カメラを絶対視することのないようにセキュリティ対策に努めることです。さらに追加するならば,防犯カメラはプライバシー保護と表裏一体であり運用する側の監視体制が徹底されなければならないということ,防犯カメラは犯罪をなくす「魔法の杖」ではなく,あくまで「対症療法」であること,カメラの持つ利点と個人や人権との調和をめざすことが何より求められることを肝に銘じなければなりません。
参考
- 認知件数
警察等捜査機関によって犯罪の発生が認知された件数を言う。
参考文献
- デイヴィッド・ライアン:監視社会. 河村一郎, 訳. 青土社, 2002.
- 矢野五十二:監視カメラが語る恐るべき真実. 廣済堂出版, 2000.
- 日本病院会, 監:病院の防犯. 日本実務出版, 2003.
- 平成28年版犯罪白書. 法務省
- 三菱電機ビルテクノサービス:防犯カメラに関する意識と実態調査報告. 2014年3月27日ニュースリリース.
もつれない患者との会話術
「もつれない 患者との会話術<第2版>」
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
目次
総論 |
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窓口・待合室での会話術 |
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支払いにまつわる会話術 |
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診察室での会話術 |
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看護師・医療スタッフの会話術 |
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問い合わせでの会話術 |
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