もつれない患者との会話術
ポイント
みなさんの医療機関では,忘れ物の取り扱いを取り決めていますか。たかだか数百円の雑誌であろうと,まだ全部読み終わっていない患者にとってはもったいないと思うこともあり,執拗に対応を求められる場合もあります。
解説
●忘れ物の取扱い
外来や入院において,忘れ物にも様々な物があります。よくある物としては,読み終わったと思われる新聞や雑誌,診察券,財布,タオル,メガネ,薬,傘,携帯電話,ハンカチなどです。また,退院の際に依頼した診断書を忘れて帰院する患者もいます。これらの忘れ物の取り扱いについてみなさんの医療機関では取り決めをしているでしょうか。
設問のような「読み終わったら捨てるような雑誌」であっても,読み終わっていない患者からすればもったいないと思うわけで,雑誌1冊のことで延々と対応を求められかねない状況にもなります。
忘れ物は遺失物と呼ばれ,法律的には占有者の意思によらないでその所持を離れた物のうち盗難でない物をいいます。遺失物については遺失物法という法律があり,取り扱いも同法に沿った手順で対処するのが最もよいと思います。
その方法とは以下の通りです。
- 遺失物を拾得した者は,速やかに警察署に届け出るか,病院内での拾得については病院管理者(実際は,事務室や保安課,防災課の窓口)に届け出ることになります。
- 拾得物の届け出を受けた警察署は拾得物の返還を受けるべき者の氏名または居所が不明の場合には,遺失物法施行令の規定にしたがって,警察署で公示します。
- 公報3カ月以内に所有者が現れない場合には,拾得者がその物の所有権を取得します。
以上が,法律に則った手順となります。ここで注意しなければならないことは,遺失物といえども横領すると遺失物横領罪(占有離脱物横領罪:刑法第254条)で罰せられ,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料となることです。本罪の成立は所有権の帰属を明らかにする必要はなく,他人の所有であることが認定されれば成立することにあります。
医療機関の対応
各医療機関においても遺失物および拾得物に関する取扱要項等の規定を作成していることと思われますが,取扱いとしては前述の法に則った方法が最良と思われます。
忘れ物が無価値の物で廃棄してもよいと思われる場合には警察署に届け出なくても横領に該当しないと言われていますが,他人にとっては無価値な物であっても本人にとっては古い新しいに関係なく思い出の品であったり,記念品であったりする場合もありますので,医療機関で処分の可否を判断する場合には十分な時間と期間を設けて対処することが肝心です。
院内において患者や見舞い客から届けられた遺失物については,医療機関の管理者が拾得者となり当該物の種類や数量など必要な事項を院内の見やすい場所に掲示するとともに届出のあった拾得者の氏名や住所,拾得年月日等必要な事項を記載し,当該物を受け取った旨を証する書面を拾得者に交付しなければなりません(遺失物法施行令第26・27条)。報労金については,医療機関と拾得者で2分の1ずつもらう権利を有していることも覚えましょう。
また,院内の忘れ物については,「1週間を過ぎた物については,当院で処分いたします」といった掲示をするなり,入院患者については入院申込書あるいは入院のしおり等に同様の文言を入れて,なおかつ説明しておけばトラブルになることも少なくなると思われます。
関係法令など
第4条第2項の規定による交付を受けた施設占有者は,速やかに,当該交付を受けた物件を遺失者に返還し,又は警察署長に提出しなければならない。
施設占有者は,第4条第2項による交付を受けた物件については,第13条第1項により遺失者に返還し,又は警察署長に提出するまでの間,これを善良な管理者の注意をもって取り扱わなければならない。
- 遺失物法第16条(不特定かつ多数の者が利用する施設における掲示)
施設占有者のうち,その施設を不特定かつ多数の者が利用するものは,物件の交付を受け,又は自ら物件の拾得をしたときは,その施設を利用する者の見やすい場所に第7条第1項各号に掲げる事項を掲示しなければならない。
物件の返還を受ける遺失者は,当該物件の価格の100分の5以上100分の20以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。
- 2.前項の遺失者は,当該物件の交付を受けた施設占有者があるときは,同項の規定にかかわらず,拾得者および当該施設占有者に対し,それぞれ同項に規定する額の2分の1の額の報労金を支払わなければならない。
- 3.国,地方公共団体,独立行政法人,地方独立合成法人,その他の公法人は,前2項の報労金を請求することができない。