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個人情報をどのようなときに,どのような方に教えてよいか,そのときの根拠となる条文は何かなどを理解することでスムーズな対応が可能となるものと思われます。
個人情報保護法施行後,ある日の朝刊に「児童のけがも個人情報とは」という題で投書されていたので概略を紹介します。
「授業中にけがをして治療を行っても,症状は個人情報ということで,医療機関が付き添いの教員に症状を説明しない事例が増えており,その結果,保護者に児童の症状を伝えられない状況となっている。保護者も学校に対して不信感を抱くだろうし,学校にとっても症状を知らないまま日常の指導を行うことに不安感が残る」といった内容でした。
この投書に対し,後日ある医師が「学校が保護者との間で,児童の診察情報のやり取りについてのルールをつくり,保護者がこのルールに同意していることを医療機関が把握できれば,問題ははるかに減るだろう。ただし同意していない保護者とは個別に対応する必要がある」という投書が同じ新聞に掲載されていました。これを読んだときに,個人情報保護法の趣旨とこの投書の内容に少し違和感を感じました。
個人情報保護法に基づいて,「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(平成29年4月14日,厚生労働省)(以下,「ガイダンス」)により医療機関における具体的運用指針が示されていますが,保護法第23条(第三者提供の制限)の運用として「学校からの照会」の対応について示されています。「児童・生徒の健康状態に関する問い合わせ」と「休学中の児童・生徒の復学の見込みに関する問い合わせがあった場合」の2項目について本人の同意なしでは回答してはならないと例示しております。例示は学校事故により搬送された児童の症状の問い合わせを想定していないような文言となっていますが,一般的にはこの例示に倣い対応している医療機関もあると思われます。
本件に関して「医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」の座長を務められた樋口範雄東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授は「上記のような報道があったが,このような対応は本来の趣旨と異なること,学校事故による救急搬送の場合は一種の緊急時と考えられ,第23条の同意原則の例外規定のうちの,『人の生命,身体または財産の保護』に入ると解して情報提供の正当化を試みることが可能と思われること,学校事故の場合には,あらかじめ同意をとったり通知公表項目に入れておかなくとも,例外とすることが可能と考えられること」と説明しています。また「ガイダンスの例は,たとえば病気等で長期入院している生徒についての問い合わせを想定していると思われること,『人の生命,身体または財産』という項目を利用する場合,通常は『児童の生命,身体に関する安全』を考え,親との連絡がつきにくければこの項目を利用すると考えられること,そして解釈として学校事故であり,学校の責任(金銭補償)ということを考えると『財産』ということで考えることもできる」と説明しています。
以上を踏まえて,学校事故で救急搬送されてきた児童および生徒の治療の問い合わせに対する医療機関の対応として,学校の教員に説明することは法の趣旨および解釈から言って何ら違反にならないということを理解することです。
ガイダンスの「Q&A」でも,「けがの原因となった事故の再発防止や再発した際の応急処置等に有効であり,学校側に必要な情報を伝えておくべきと医師が判断できる場合は,『人の生命・身体の保護のために必要がある場合』に該当し,仮に当該生徒本人の同意が得られない場合であっても,必要な範囲で担任の教師に情報提供できると考えます」と回答しています。学校としても学校教育基本法等で児童・生徒の監督責任および安全管理への配慮が求められており,保護者にしても学校の教員から子どもの症状の報告を受けることに対して何ら違和感を持つことはないはずです。以前なら常識的な判断で対応してきたことが,法律施行後,厳格な解釈と運用でおかしな現象が発生していることはご存じの通りです。
前出の樋口教授も「眼目は常識的に許されることは許すべきだということ。法は非常識であってはならないから」とはっきり言い切っています。
関係法令など
個人情報取扱事業者は,次に掲げる場合を除くほか,あらかじめ本人の同意を得ないで,個人データを第三者に提供してはならない。
参考
編者: 大江和郎(東京女子医科大学附属成人医学センター 元事務長)
提供/発行所: 日本医事新報社
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