もつれない患者との会話術
私立大学医療安全推進連絡会議*は2013年3月28日,メンバーである都内私立大学附属病院本院11施設の職員2万9,065人を対象に行った「都内私立大学病院本院の職員が患者・患者家族などから受ける院内暴力の実態」調査結果を公表した。大学病院の院内暴力調査はこれが初めてで,約4割の職員が「院内暴力」を受けていることが明らかとなった。(編集部)
(*連絡会議メンバー:杏林大学医学部付属病院,慶応義塾大学病院,順天堂大学医学部附属順天堂医院,昭和大学病院,帝京大学医学部附属病院,東京医科大学病院,東京慈恵会医科大学附属病院,東京女子医科大学病院,東邦大学医療センター大森病院,日本医科大学付属病院,日本大学医学部附属板橋病院)
回答者2万2,738人(有効回答率78.2%)のうち,図1の通り,「暴言」を受けたのが41.5%,「身体的暴力」を受けたのが14.8%,「セクシャルハラスメント」を受けたのが14.1%となり,ほぼ2人に1人が「暴言」を,ほぼ7人に1人が「身体的暴力」や「セクハラ」を受けている実態が浮き彫りとなった。
図2は職種別の構成比で,看護師・准看護師・保健師・助産師(以下,看護師等)が44.1%,研修医を含む医師が15.2%などとなっている。
58人が「死」を考えた
図3は「院内暴力」を受けた際の思いや気持ちをまとめたデータで,1位は16.3%の「腹が立った」であった。一方,「怖かった」12.9%,「驚いた」11.0%,「強いショックを受けた」6.2%といった“恐怖・ショック”の反応の合計は30.1%であり,“怒り”の気持ちのほぼ倍となっている。
また,院内暴力が日常化しつつある状況を反映してか,「しかたないと思った」7.3%,「またかと思った」7.1%,「我慢しようと思った」6.1%,「空しかった」5.4%,「何も感じなかった」0.4%という声も上がっている。
深刻なのは,「退職したいと思った」人が3.7%,「死にたかった」人が0.2%いるという事実。この調査で「退職したいと思った」人の実数は1,159人,「死にたかった」人は58人で,暴言・暴力・セクハラに追い込まれている医療人を見つけ,救済することが医療現場の新たな課題になっていることは間違いない。
また,図4は「院内暴力」を受けた際の個人レベルでの対応(関係した院内暴力の原因が医療者側にないと回答した人のみ)をみたもの。医療者側に責任がないケースと思っていたにもかかわらず,「我慢した」が最も多い24.8%で,次に「謝罪した」が15.3%となっている。
「言葉で直接抗議した」10.0%,「やり返した」0.4%という対応もあるが,自分以外の人の協力を得ようとした(「病院のルールに従い,人を呼んだ」11.8%,「助けを呼んだ」10.9%,「患者家族に協力を求めた」2.6%,「警察を呼んだ」1.4%,「非常ブザーを鳴らした」0.7%)行動パターンは合計27.4%となっている。
暴言は看護師,医師,事務員で高い比率
図5,図6は「暴言」に関するアンケート結果。「暴言」を受けた割合が高いのは,看護師等,医師,事務員で,看護師等は50.5%と半数を超えている。「暴言」の内容は,罵詈雑言の類(バカ,アホ,ふざけるな,誠意を見せろ,土下座しろ等)が25.9%,苛立つ態度が25.6%でほぼ同率となっている。
身体的暴力,セクハラは看護師等で高率
図7,図8は「身体的暴力」,また図9,図10は「セクハラ」に関するアンケート結果で,職種別にみると,看護師等が他職種に比べて高率で遭遇している実態がみえてくる。
「身体的暴力」の内容は主に,手を使って痛みを与える(叩く,蹴る,つねる,殴る)ものが多かったが,「物を投げつけられた」9.0%,「噛まれた」7.5%という結果も出ている。
「セクハラ」の内容に関しては,「身体に触る」のが40.6%と群を抜いて高いが,わいせつな写真・発言等の「性的暴力」8.0%,「ストーカー行為」5.2%の割合も高い。
原因の1位は「説明や確認の不足」
関係した「院内暴力」の原因が医療者側にあると感じる人に「医療者側の原因」を挙げてもらったところ,1位は「説明や確認の不足」19.0%であった。
以下,「待ち時間が長い」15.5%,「医療者の態度」11.8%,「患者の意に沿わない医療行為」10.6%,「自分が女性であったこと」9.0%,「コミュニケーションが未熟」8.4%,「自分が新人や研修医など若者だから」6.3%,「言葉遣い」5.2%,「院内の環境(臭気・騒音・温度など)」4.3%,「診療費関係」2.5%の順となっている。