皮膚所見クイズ
症例報告 158 [主訴: 前額部の外傷後の難治性潰瘍]
<症例> | 77歳、男性 |
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<主訴> | 前額部の外傷後の難治性潰瘍 |
<既往歴> | 高血圧症 |
<家族歴> | 特記すべきことなし |
(症例提供) | 岐阜大学大学院皮膚病態学 助教 松山 かなこ 先生 |
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(監修) | 岐阜大学大学院皮膚病態学 教授 清島 真理子 先生 |
解答と解説
診断名
- 血管肉腫 angiosarcoma
鑑別診断
- 全肉腫の1%に満たない非常にまれな肉腫であり、遭遇する機会が少ないことから難治性の外傷後潰瘍や血腫、帯状疱疹と誤診され、診断が遅れることもある。
検査、原因、治療法
- 病理所見1(弱拡大像)
真皮内の膠原線維束を囲むように異型内皮細胞が増殖浸潤し血管腔を形成する。クロマチンに富む類円形の腫瘍細胞が増殖し多数の赤血球がみられる。
高齢者の頭部に多く、外傷性を契機に発症することが多いといわれている。日本人では黒色の毛髪により病変が隠されており、剃毛を行うと思いがけず大きな紫斑を形成していることに気が付くこともある。確定診断には皮膚生検を行う。肺や肝臓へ高率に転移するためPET-CTなどで転移検索を行う。肺転移は気胸、血気胸になりやすい特徴を持つ。治療は放射線療法とタキサン系薬剤による化学療法の併用が主であり、近年生存率を伸ばしている。手術療法については主として原発巣が小さく限局した症例が対象になる。2次治療としてキナーゼ阻害剤であるパソパニブ内服や微小管阻害薬であるエリブリン静注療法がある。
自験例では初診時すでに肺転移を認めていた。頭部は剃毛し病変を確認し(写真2:治療開始時)、結節や紫斑の辺縁から2cmマージンの範囲に総線量70Gyの放射線治療と、weeklyパクリタキセル療法(80mg/m²)を開始した。局所の結節や紫斑は消失し、肺転移も縮小した。化学療法を維持療法として継続していたが、次第に肺転移(胸部CT、矢印)が増大増加し、気胸を繰り返すようになり、治療開始2年半後に血気胸のため永眠された。