しくじり症例から学ぶ総合診療
主治医機能を担うこととは
地域包括ケアシステムの中で医療が果たす役割は大きい。また,その大きさ故に,医療機関それぞれの役割分担を明確にする必要がある。厚生労働省は外来診療の面では,大病院と診療所・中小病院とでその役割をわけようとしており,この診療所・中小病院向けに2014年から診療報酬に地域包括診療料・加算が新たに創設され,これらの算定条件を満たす医療機関が主治医機能を持つ医療機関と考えることができる。診療所は,当初「常勤医師3人以上」とされていた条件が,2018年の診療報酬改定で「常勤換算2人以上,うち1人以上が常勤」まで緩和されており,主治医機能を持つ医療機関が増えることが期待されていると考えられる。これらは,大病院が入院と専門分化された外来に特化し,診療所・中小病院に一般外来・訪問診療などの主治医機能の強化が求められている裏づけであり,結果,大病院への受診抑制と入院抑制につながると思われる。
よって,これからは外来から在宅へ,自院で切れ目なく医療を提供できる体制の構築が求められる。2018年の診療報酬改定では,自院で外来から訪問診療に移行した患者数が診療報酬に影響するなど,診療所・中小病院は在宅医療を展開することが求められている。主治医機能を維持するための医療機関づくりをする中で,薬剤師,医療ソーシャルワーカー,栄養士など他職種の人材確保が重要である。一方で,診療報酬の改訂ごとに期待される主治医機能のための細かい基準が設定される。それにより,外来診療・訪問診療のどちらでも算定できる施設条件について,前年までは算定できていた診療報酬が算定できなくなる可能性がある。社会の高齢化とともに医療政策の方向性を注視し,主治医機能を維持できる施設条件とスタッフの配置を検討する必要がある(図1)1)。
複数疾患を抱える患者の管理と医療機関連携
社会の高齢化が進み,約45%の患者が複数の医療機関,あるいは複数の診療科を受診している状況である。医療に関する国民の意識調査では,日頃から相談・受診している医師・医療機関へ期待することとして,集約すると「継続的かつ全人的な診療」や「アクセスの良さ」が挙げられている(図2)2)。健康上の問題が生じれば,物理的にも心理的にもアクセスしやすいかかりつけの医療機関を受診し,医師が必要に応じて専門医療機関へ適切に紹介するという主治医機能が求められていることがわかる。
そのような主治医機能を持つ医療機関には,高血圧症,糖尿病,脂質異常症,認知症などを含む,複数の疾患を抱える患者の一元管理が求められる。それに応えようとするばかりに,「認知症だと思っていた患者の症状が神経難病やうつ病などの精神疾患によるものだった」というような臨床面での「しくじり」につながらないようにする。日頃から疾患を学ぶだけでなく,地域のどの医療機関に専門家がいるのかを把握し,お互いに顔の見える関係を構築することで紹介するハードルを下げて,医療機関連携を進みやすくする必要がある。こうすることで,専門医療機関に紹介しても報告書が来ないために経過が不明で,体調不良で来院した患者の状態がわからずに混乱するようなことは避けられるのではないだろうか。
一方で,わが国では医療機関に対してはフリーアクセスが認められている。そのため,一元管理をしていこうと医師が考えていても,患者から「糖尿病は○○病院の△△先生に診てもらいたい」と言われてしまえば受け入れざるをえない。また,他病院へ入院したが家族からの連絡がなかったため,退院したあとに初めて入院の事実を知るということもあるだろう。入院した場合には入院先の医療機関から主治医へ連絡が入り,医療情報のやり取りができるようなシステムを地域の中で構築できれば,これらの問題も解決できるのではないだろうか。
また,外来診療においても休診日や深夜,年末年始など24時間対応を求められることもあるが(図2)2),ソロ診療が多い診療所では対応しきれないことが考えられる。今後はグループ診療へ移行することや医療機関同士の連携強化などで,ニーズに応えることも必要ではないだろうか。
服薬管理
外来診療・在宅診療にかかわらず,薬を処方していても患者が服用していないことがある。その理由は,患者個人の考え方や医師からの説明不足の場合だけでなく,生活リズムや生活環境(住居環境,同居する家族の問題など)にある場合もある。外来診療の中ではこれらの要因を確認することは難しいが,訪問診療を導入している場合はただ診察をして処方箋を渡すだけではなく,自宅の残薬の確認や薬の保管場所についても確認することができる。調剤薬局との連携で薬の受け渡しの際にやり取りの確認や,家族状況によっては訪問薬剤管理の導入も検討することで複数の視点で介入することができる。
もしかかりつけ薬局があれば,自院からの処方内容以外にも処方されている薬剤がないか,調剤薬局に確認する必要がある。薬局側としては,重複投薬や相互作用の防止目的に疑義照会を行うことで調剤報酬に算定できる項目もあるため,主治医として日頃から調剤薬局との連携を深めておく必要がある。多剤投与のケースが増加していることについては各論にゆずることとする。
患者によっては,他の専門医療機関の受診や他の医療機関からの処方薬があることを,医師への遠慮からか報告しないこともある。患者が報告の必要はないと認識している可能性もあるため,日頃より医療者側から質問し,確認するべきである。地域包括診療料の算定条件に「他院の処方内容の確認,お薬手帳のコピーの添付」などが必須条件となっているのはそのためと考えられ,地域包括診療料・加算を算定していない場合でも主治医として積極的に確認する。一方で,患者はかかりつけ薬局を持たず,医療機関に近い調剤薬局の利用が多く,複数の医療機関を受診した結果,複数の調剤薬局を利用していることがある。お薬手帳を複数冊つくっている患者もおり,情報収集としてはお薬手帳のコピーだけでは不十分な場合もあるため,口頭でしっかりと確認する。
健康管理
外来通院している患者の健康管理では,健康診断・検診の受診勧奨が重要である。勧めても受診してくれないことや,人間ドックや職場の検診を受けると言って健診・検診の受診が滞ることは少なくないが,根気強く勧奨する必要がある。一方で,定期通院しておらず日頃なかなか受診しない患者が健康診断・検診を受けに来た場合,相談したいことがないか積極的に聞き出す必要がある。また,喫煙や飲酒などの嗜好品の聴取や,何気ない会話から抑うつ気分などのスクリーニングを行い,必要に応じて介入することが主治医機能としては必要ではないだろうか。健康について気軽に相談にのることが主治医には求められている(図3)1)。
介護保険制度への関わり方
地域包括ケアシステムを支える介護の面に関わることも大切である。介護保険を利用するにあたって作成する主治医意見書は,主治医機能として非常に重要なものである。医師が申請から認定までの流れを理解し,記載する内容を医学的側面と介護的側面にわけ,介護認定審査会に出席している多職種にわかるような記載を心がける必要がある。主治医意見書に化学療法の内容を詳細に記載しても,介護認定の参考にはならない点に留意しなければならない。
そのためにも,日頃から患者の外来での様子について,たとえば家族同伴なのか,杖を使っているのか,痛みの様子,会話の成立具合などを診療録に記載する必要がある。認知症を疑えば,簡易検査を自院で行うことや専門医療機関へ紹介することも検討する。
1人で来院する患者の場合,自宅での様子はわからないことが多いため,自宅での様子についてときどき家族と連絡を取ることや,担当するケアマネジャーや利用する介護サービスに関わっている看護職・介護職から情報を得る工夫が必要である。短い外来診療の時間内では得られない情報の集め方の工夫として,必要に応じてケアマネジャーと相談した上で,サービス担当者会議を開催することも1つの方法である。自宅での生活を支える介護保険サービスでは多職種との連携が大きな鍵となるため,ケアマネジャーや訪問看護ステーションの多職種と,顔の見える関係を構築することが重要である。訪問診療を行っている場合は,自宅での様子もわかるため居宅療養管理指導を行うことでケアマネジャーとさらにコミュニケーションを取ることができる(表1)1)。
在宅医療の提供
外来診療から在宅医療へ,切れ目ない医療を提供することが主治医機能に求められている。主治医として,患者と長い時間をかけた信頼関係が構築されていると,場面場面での意思決定にも深く関わることがあり,在宅医療に移行する頃にはadvance care planning(ACP)を含めた話し合いを,医師だけでなく看護師,薬剤師,ソーシャルワーカーの多職種とともに進めていくことが重要となる。
在宅医療では,24時間対応を掲げていても,患者が遠慮して連絡しない場合や,先に救急車を呼んでしまい数日後に主治医が入院を知ることもあるため,自院の連絡先を患者の自宅に掲示するなどして,患者本人や家族と連絡を取りやすい環境をつくることや,訪問看護ステーションをファーストコールにして,連絡するハードルを下げる工夫もある。一方で,24時間対応となると受け手である医療機関が,夜間の対応について人員的にも精神的にも難しくなる場合がある。これはグループ診療の導入や他の医療機関との連携,訪問看護ステーションとの連携方法などで工夫することができる。また,夜間や休日にコールが来ないように,病状をみて早めに医学的な対応を行えば,悪化を防ぐとともに家族の不安を拭うことができ,結果として不要不急の臨時往診を減らすことができる。
文献
- 厚生労働省:中央社会保険医療協議会:外来医療(その3)<主治医機能について>.2013.
[https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12404000-Hokenkyoku-Iryouka/0000025681.pdf] - 健康保険組合連合会: 医療保障総合政策調査・研究基金事業 医療に関する国民意識調査 報告書. 2011.
[https://www.kenporen.com/include/outline/pdf/chosa23_01.pdf]
しくじり症例から学ぶ総合診療
「しくじり症例から学ぶ総合診療」
編者: 雨森正記(弓削メディカルクリニック院長)
監修: 西村真紀(川崎セツルメント診療所所長)
提供/発行所: 日本医事新報社