症例 患者:Aさん,80歳代,女性
高血圧,慢性腎臓病,変形性腰椎症,坐骨神経痛,骨粗鬆症で当院に通院していた。当初は,高血圧で通院を開始し,整形外科にも通院していた。杖歩行になり,整形外科の通院も大変になり,通院をやめ,処方を当院で継続するようになっていた。腰痛は続いており,プレガバリン150mg/日,アセトアミノフェン1,800mg/日,エルデカルシトール0.75μg/日を内服していた。徐々に腎機能も悪化し,Cre:1.6mg/dLとなっていた。
あるとき,ウイルス性上気道炎になり,その後,食欲不振が続いていた。水分しかとれず,血液検査では腎機能障害はあるものの,他に大きな異常はなかった。食欲不振は改善せず,他院へ紹介すると,Ca:13.8mg/dLの高カルシウム血症であった。当院ではCaを測定していなかった。また,入院時の内服薬確認で,腰痛が良くならないため,新しくできた整形外科医院を受診していたことがわかった。そこではロキソプロフェン180mg/日,エルデカルシトール0.75μg/日が処方されており,エルデカルシトールの処方が重複していた。エルデカルシトールは骨粗鬆症治療に用いられる活性化ビタミンD製剤で,添付文書では,血清カルシウム値の定期的測定が推奨されている。腎機能障害のある患者では,さらに血清カルシウム値を上昇させることがあり慎重投与となっている。エルデカルシトールの中止と補液で血清カルシウム値は正常化し,食欲も改善した。
他の医療機関への通院や処方を定期的に確認することが抜けており,「しくじり」を自覚した。
しくじり診療の過程の考察
患者が高齢となり通院が困難になると,複数の医療機関への通院をやめ,総合診療医が複数の疾患を管理することがある。整形外科の通院をやめ,処方を当院で行うようになり,「もう整形外科には行っていない」という先入観があった。患者は,改善しない慢性の症状があるとき,ある医療機関への通院や中断を繰り返したり,別の医療機関に変えたりすることがあり,そのことを医師に言わないことがある。
慢性疼痛に医師が慣れてしまい,痛みの状況,内服,通院の確認を怠ったことがしくじりにつながった。慢性腎臓病で腎機能が悪化すると内服薬の種類,容量などの注意事項が増えるが,定期通院患者の腎機能が徐々に低下すると薬への注意を怠りがちになることがある。
こうすればよかった,その後自分はこうしている
通院している患者が他院に通院して処方を受けていないか,お薬手帳を確認している。他院の処方も当然変わっていくこともあるし,受診する医療機関が増えたり,変わったりしていることもある。複数医療機関の受診で調剤薬局も複数になり,お薬手帳を何冊も持っているケースもあるので,お薬手帳の確認だけでなく問診でも確認するよう心がけている。
このしくじり症例のように,患者が複数の医療機関にかかっていることや,症状の経過が長いと,その都度他医に新たにかかったことを話さない(話し忘れる)ことがあります。筆者も幾度か経験しているので,スタッフと共同し,服薬内容のチェックシステムを考えてきました。当院では,服薬内容を複数人数でチェックすることにしています。すなわち,事前問診での看護師による服薬内容のチェックと,その後,診察時の医師によるチェックです。
看護師は簡易的な薬のチェック表(表1)を用いて,新患患者の場合,病歴聴取時にお薬手帳の有無を確認し,持っている場合は手帳をコピーさせてもらい,そしてカルテに薬の内容を記載します。受診した医療機関ごとにお薬手帳を持っている方もいるため,1つにまとめたほうが服薬管理をしやすいことを説明します。またはすべてのお薬手帳を持参するように説明します。お薬手帳を持っていない場合は,服薬管理の必要性を説明し,今後のお薬手帳の持参・携帯を勧めます。一方,定期・再来患者の場合は,他院を受診して処方されている定期薬の変更があった際にお薬手帳を見せてもらい,カルテに記載します。持参していないときは,持参・携帯の必要性を説明します。このように,予診時と診察時のダブルチェックをすることで,NSAIDsや活性化ビタミンD3製剤,ビスホスホネート製剤の二重投与を防げたことがあります。
このように,複数の人数でチェックすること,お薬手帳携帯のお願いを繰り返し説明することが,薬の重複投与を防ぐのに重要と思います。